「退職代行へ頼めば、明日から会社へ行かなくてよいのか」
「有給休暇や未払い残業代についても、会社と交渉してくれるのか」
「申し込んだ後は、会社と一切連絡を取らなくてもよいのか」
退職代行を検討していても、実際に何を任せられるのか分からず、不安を感じる方は少なくありません。
元労働基準監督官として最初にお伝えしたいのは、退職代行は「退職に関するすべてを解決してくれるサービス」ではないということです。
退職意思を会社へ伝える負担は減らせますが、運営主体によって、会社との交渉や法的トラブルへの対応範囲が異なります。
この記事では、退職代行ができること・できないこと、民間事業者・労働組合・弁護士の違い、申し込みから退職までの流れを整理します。

・退職代行の基本的な役割は、本人に代わって退職意思や希望事項を会社へ伝えること
・有給休暇や退職日の交渉、未払い賃金の請求、損害賠償などへの対応は、運営主体と契約内容によって異なる
・「料金が安いか」だけでなく、「自分が必要とする対応ができるか」で選ぶことが重要
そもそも退職代行とは?
退職代行とは、本人に代わって会社へ退職意思を伝え、退職に必要な連絡を支援するサービスです。
上司へ直接退職を伝えることが難しい人や、強い引き止めが予想される人にとって、会社との接触を減らせることが大きな特徴です。
ただし、退職代行を利用したからといって、退職に関する法律が変わるわけではありません。
期間の定めがない労働契約では、一般的には退職を申し入れてから2週間で労働契約が終了するとされています。一方、期間の定めがある契約では、契約途中の退職に別の条件や例外があります。
会社から「辞めさせない」と言われた場合の考え方と対応手順は、「『辞めさせてくれない』は法律で通らない?」で解説しています。
詳しくは、厚生労働省の退職、解雇、雇止めなどの解説でも確認できます。
かずき「退職代行は退職の権利を新しく作るものではありません。本人が退職意思を伝える負担を軽くするための手段、と考えると分かりやすいですよ。」
退職代行がしてくれること
実際のサービス内容は事業者によって異なりますが、一般的には次のような対応が行われます。


1.会社へ退職意思を伝える
退職代行の中心となる業務です。
本人から依頼を受けた担当者が会社へ連絡し、退職する意思や希望する退職日などを伝えます。
上司へ電話をかけたり、退職理由を繰り返し説明したりする負担を減らせる可能性があります。
ただし、退職代行が退職を決めるわけではありません。退職するかどうかを決めるのは、あくまで本人です。
2.本人へ直接連絡しないよう会社へ依頼する
「今後の連絡は退職代行を通してほしい」と会社へ伝えてもらえる場合があります。
会社からの電話に強い不安を感じる人にとっては、大きな負担軽減になります。
ただし、会社がこの依頼に必ず従うとは限りません。
本人確認や業務上の確認などを理由に、会社から直接連絡が来る可能性はあります。「会社から絶対に連絡が来ない」と保証されるものではない点に注意しましょう。
実際に会社から連絡が来た場合の対応については、退職代行を使っても会社から連絡は来る?連絡されたときの対処法で詳しく整理しています。
3.退職日や有給休暇に関する希望を伝える
次のような希望事項を会社へ伝えてもらえる場合があります。
・希望する退職日
・有給休暇を取得したいこと
・退職日まで出勤しないことを希望していること
・会社からの連絡方法
・私物の受け取り方法
ここで重要なのが、「希望を伝えること」と「会社と交渉すること」は別だという点です。
民間事業者が本人の希望を伝えることはできても、会社が拒否した後に条件を変更させるための交渉までできるとは限りません。
交渉が必要な場合は、労働組合や弁護士など、対応できる運営主体を選ぶ必要があります。
4.貸与品の返却方法や私物の受け取り方法を伝える
会社のパソコン、社員証、制服、鍵、健康保険証などの返却方法について、会社と連絡を取ってもらえる場合があります。
また、会社に残した私物を郵送してほしいなどの希望も伝えられます。
ただし、退職代行が実際に荷物を梱包したり、本人の代わりに貸与品を返却したりするとは限りません。
郵送方法や送料の負担などは、会社と確認しながら進める必要があります。
5.退職書類を郵送してもらうよう伝える
退職後には、次のような書類が必要になることがあります。
- 離職票
- 雇用保険被保険者証
- 源泉徴収票
- 退職証明書
- 健康保険資格喪失証明書
退職代行から会社へ、必要書類を本人の住所へ郵送してほしいと伝えてもらえる場合があります。
ただし、書類の発行主体は会社や関係機関です。退職代行が書類を発行するわけではありません。
書類が届かない場合は、書類の種類に応じて会社、ハローワーク、年金事務所などへ確認する必要があります。
6.退職までの手順を案内する
サービスによっては、次のような実務上の案内を受けられます。
- 退職届の書き方と送付方法
- 貸与品の返却方法
- 会社から連絡が来た場合の対応
- 退職までに準備するもの
- 退職後に必要となる手続き
会社と話さなくて済むことだけでなく、次に何をすればよいか整理してもらえることも退職代行を利用するメリットの一つです。
退職代行ができないこと
退職代行を利用する前に、できないことも確認しておきましょう。
・すべての人を即日退職させること → 退職には法律上の期間がある
・有給休暇の取得を必ず実現すること → 希望を伝えることと確定は別
・未払い賃金や残業代を必ず回収すること → 伝達と法的な回収は別
・損害賠償などの法的トラブルをすべて解決すること → 弁護士でないとできない対応がある
・退職後の手続きをすべて代行すること → 保険や年金などは本人の手続きが残る
・会社との関係を完全に消すこと → 貸与品の返却などの事務は残る
1.すべての人を即日退職させること
広告などで見かける「即日対応」と「即日退職」は同じではありません。
即日対応とは、申し込んだ当日に会社へ連絡することを意味する場合があります。
一方、即日退職とは、その日のうちに労働契約が終了することです。
期間の定めがない契約でも、法律上は原則として退職申入れから2週間という期間があります。会社が即日の退職に同意する場合や、有給休暇などにより出勤せず退職日を迎える場合はありますが、すべてのケースで即日退職できるわけではありません。
「今日から出勤しなくてよい」と「今日付けで雇用関係が終了する」は分けて確認しましょう。
2.有給休暇の取得を必ず実現すること
退職代行は、有給休暇を取得したいという本人の希望を会社へ伝えられます。
しかし、退職代行へ依頼しただけで、有給休暇の取得が自動的に決まるわけではありません。
残日数、申請内容、退職日までの日数などを確認する必要があります。また、会社との話し合いが必要になった場合、対応できる範囲は運営主体によって異なります。
「有給を必ず消化できる」という説明ではなく、どこまで対応してくれるかを確認しましょう。
3.未払い賃金や残業代を必ず回収すること
未払い賃金や残業代の存在を会社へ伝えることと、法的に請求して回収することは別です。
金額や支払い義務について会社と争いがある場合は、証拠の確認や法的判断が必要になることがあります。
民間事業者へ退職連絡を依頼しただけで、未払い賃金や残業代まで回収できるとは限りません。
未払い残業代などを請求したい場合は、タイムカード、業務メール、シフト表などの記録を確保したうえで、労働基準監督署や弁護士などへ相談する方法があります。
4.損害賠償などの法的トラブルをすべて解決すること
会社から損害賠償を請求された、懲戒処分を示唆された、ハラスメントについて慰謝料を請求したいなど、すでに法的な争いがある場合は注意が必要です。
このような問題について、法律相談や会社との交渉、裁判手続きを依頼したい場合は、弁護士への相談を検討します。
弁護士ではない者が、報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を扱うことは、弁護士法第72条によって制限されています。該当するかどうかは個別の具体的な事情によって判断が分かれるとされているため、「弁護士監修」「労働組合と提携」といった表示だけで判断せず、実際に誰が契約主体となり、誰が対応するのかを確認してください。
5.退職後の手続きをすべて代行すること
退職代行を利用しても、次の手続きまで自動的に完了するわけではありません。
- 雇用保険の手続き
- 健康保険の切り替え
- 年金の切り替え
- 住民税の確認
- 転職活動
- 会社から届いた書類の確認
退職後の手続きには期限があるものもあります。会社を辞めた後に何が必要か、あらかじめ整理しておきましょう。
6.会社との関係を完全に消すこと
退職代行を利用しても、貸与品の返却や書類の受け取りなど、退職に必要な事務は残ります。
また、会社から確認事項が発生する可能性もあります。
退職代行を使えば「何もしなくてよい」と考えるのではなく、本人が行う手続きと代行してもらえる連絡を分けて確認することが大切です。
民間・労働組合・弁護士で何が違う?
退職代行は、主に運営主体によって3種類に分けられます。


| 運営主体 | 主な対応 | 向いている人 | 確認したい注意点 |
|---|---|---|---|
| 民間事業者 | 退職意思や希望事項の伝達、連絡窓口 | 会社への連絡だけを任せたい人 | 会社との交渉が必要になった場合の対応 |
| 労働組合 | 退職連絡、労働条件に関する団体交渉 | 退職日や有給などの調整を希望する人 | 組合加入、交渉範囲、追加料金 |
| 弁護士 | 退職連絡、法律相談、請求や紛争への対応 | 未払い賃金、損害賠償、ハラスメントなどの問題がある人 | 相談料、追加費用、委任する業務の範囲 |
運営主体ごとの対応範囲と法律上の違いは、「退職代行は違法?民間企業・労働組合・弁護士の対応範囲」で詳しく整理しています。
民間事業者
民間事業者の基本的な役割は、本人の退職意思や希望を会社へ伝えることです。
会社が退職を受け入れ、条件について争いがなければ、連絡代行だけで手続きが進む場合があります。
一方、会社が有給休暇や退職日について拒否し、条件交渉が必要になった場合は、対応できない可能性があります。
労働組合
労働組合には、労働条件について使用者と団体交渉を行う権利があります。使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否することは、労働組合法で禁止されています。
基本的な仕組みは、厚生労働省の労働組合に関する解説で確認できます。
ただし、退職代行を行う労働組合ごとに、対応範囲や加入条件、費用が異なります。
「労働組合だからすべて対応できる」と考えず、交渉してもらえる内容を契約前に確認しましょう。
弁護士
弁護士が運営する退職代行では、退職連絡だけでなく、依頼内容に応じて法律相談や会社との交渉、未払い賃金などの請求に対応できる場合があります。
会社から損害賠償を請求されている、ハラスメントについて法的対応を検討しているなど、すでに争いがある場合は、弁護士への相談が適している可能性があります。
ただし、基本料金にすべての対応が含まれるとは限りません。請求や交渉について追加費用が必要になる場合があるため、料金体系を確認してください。
退職代行を利用する流れ
一般的には、次のような流れで進みます。


雇用形態、契約期間、希望退職日、有給残日数、貸与品、私物、必要書類、未払い賃金の有無などを確認する
伝達だけでよいか、交渉が必要か、法的問題への対応が必要かによって選ぶべき主体が変わる
雇用形態での利用可否、拒否された場合の対応、追加料金、返金条件などを質問する
基本料金だけでなく、追加料金・後払い・返金条件も確認したい方は、「退職代行の料金相場はいくら?」をご覧ください。
利用規約、キャンセル条件、返金条件を支払い前に確認する
退職意思、希望退職日、連絡方法、有給休暇、貸与品、必要書類などを伝える
送付記録が残る方法を選び、何を返却したか記録しておく
離職票や源泉徴収票を確認し、必要な公的手続きを進める
契約後のトラブルを避けるため、退職代行で後悔しないために|よくある失敗・トラブルと契約前の確認事項も申込み前に確認してください。
退職代行へ相談する前のチェックリスト
・退職意思は固まっているか
・雇用契約の期間を確認したか
・希望する退職日を整理したか
・有給休暇の残日数を確認したか
・未払い賃金などの問題がないか
・民間・労働組合・弁護士の違いを理解したか
・基本料金と追加料金を確認したか
・返金条件を確認したか
・会社から直接連絡が来る可能性を理解したか
・貸与品と私物を整理したか
・退職後の生活費と手続きを確認したか
まだ利用すべきか迷っている場合は、先に退職代行を使うべき人・使わなくてもよい人を確認してください。
退職代行を使わずに相談できる窓口もある
退職代行を利用するか決める前に、法律上の扱いや会社の対応について確認したい場合は、公的な相談窓口も利用できます。
総合労働相談コーナーでは、解雇、雇止め、賃金、いじめ・嫌がらせなど、幅広い労働問題について相談を受け付けています。相談は無料で、必要に応じて助言・指導やあっせん制度の案内も行われています。
詳しくは、厚生労働省の総合労働相談コーナーの案内を確認してください。
未払い賃金や労働時間など、労働基準法違反が疑われる場合は、労働基準監督署へ相談する方法があります。
一方、損害賠償や慰謝料請求などの法律問題について、個別の見解や代理交渉が必要な場合は、弁護士への相談を検討してください。
よくある質問
- 退職代行を使えば、会社と一切話さずに退職できますか?
-
会社への主な連絡を退職代行に任せられる場合はあります。ただし、会社が本人確認などのために直接連絡してくる可能性はあります。退職後の書類確認や貸与品の返却など、本人が行う手続きも残ります。
- 退職代行を使えば、その日から出勤しなくてもよいですか?
-
会社の同意、有給休暇、欠勤の扱いなどによって異なります。「即日対応」と「即日退職」は別です。その日から出勤しない場合の扱いと、正式な退職日を分けて確認してください。
- 有給休暇について会社と交渉してもらえますか?
-
希望を会社へ伝えることはできますが、交渉できるかどうかは運営主体によって異なります。交渉を希望する場合は、労働組合や弁護士など、対応できる運営主体か確認しましょう。
- 退職代行を使ったことは転職先に知られますか?
-
退職代行を利用した事実が、通常の退職手続きによって自動的に転職先へ通知される仕組みはありません。ただし、個別の事情や転職先からの照会などによって状況が異なる可能性はあります。
- 退職代行を使えば必ず退職できますか?
-
無期労働契約では、会社の承諾がなくても、法律上は原則として退職申入れから2週間で契約が終了するとされています。ただし、有期契約、公務員、退職日の争いなど、個別に確認が必要なケースがあります。
まとめ|退職代行は必要な対応範囲で選ぶ
退職代行がしてくれる基本的なことは、本人に代わって退職意思や希望事項を会社へ伝えることです。
一方、すべての退職代行が、会社との交渉や未払い賃金の請求、法的トラブルまで対応できるわけではありません。
・退職代行の役割は「伝達」が基本。交渉や法的対応は運営主体によって異なる
・「必ず」「絶対」を保証する説明には注意する
・民間事業者・労働組合・弁護士のうち、自分に必要な対応ができる主体を選ぶ
利用を検討するときは、まず自分が必要としている対応を整理しましょう。
- 退職意思の伝達だけでよいのか
- 有給や退職日の調整が必要なのか
- 未払い賃金などの法的問題があるのか
そのうえで、民間事業者・労働組合・弁護士のどれが自分の状況に合っているかを判断することが大切です。
焦って契約せず、運営主体、対応範囲、料金、追加費用、返金条件を確認してください。
退職代行は、退職を急がせるためのものではありません。会社との連絡が難しい人が、自分を守りながら次の一歩を進めるための選択肢の一つです。


※本記事の内容は一般的な情報です。実際に対応できる範囲や法的な取り扱いは、運営主体、契約内容、雇用形態、個別の事情によって異なります。判断に迷う場合は、労働基準監督署、総合労働相談コーナー、弁護士などにご相談ください。










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